|| 東西医学融合研究会通信 2005年12月号 VOL.11
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知りたいことがあればインターネットで検索すれば事足りる今日この頃。そういえば、最近新聞もろくに読んでないなあという方も多いのではないでしょうか。本を読む、その落ち着いた時間は思考を深めて言葉に重きを与えます。 今回は、これからの医療の重要なキーワードの1つである「コミュニケーション」を取り上げた本をご紹介します。たまには忙しい毎日からちょっと離れて、温灸をしながらゆっくりと本のページをめくってみませんか。
■ 『ドクターショッピング なぜ次々と医者を変えるのか』
小野繁、新潮新書、2005年9月20日発行、680円
ドクターショッピングとは診断や治療に納得できずに次々に違う病院で受診を繰り返す行為を指す。
口、顔、頭頚部は医療の隙間となっており、顎関節症や舌が痛い時に、医者からは「歯科へ行きなさい」と、歯科医からは「医者へ行きなさい」と言われることが多い。著者は歯科大学を卒業後、外科医としてトレーニングを受け、「歯科医かつ医師なのでこの分野で貢献できる」と考えたが、手術をしても治らない人が少なくない。
なぜ治らないのか?著者は医者が患者と意思疎通できていないために患者はドクターショッピングを繰り返しているのではないかと思うようになる。例えば患者が「背中が痛い」と言うので内視鏡検査を行ったところ、ポリープが見つかった。「癌になる可能性があるから取ったほうがいい」と医者は言う。しかし、患者は「背中が痛い」ということを一番気にしており、ポリープと背中の痛みとの関係が説明されない限り「私の言っていることとは関係ない、医者は答えをすりかえている」と思い、別の医者を求めて放浪していく。
現在、著者は東京医科歯科大学頭頚部の心療内科で診察を続けており、心が原因で体の不調が引き起こされるケースを多く担当している。コミュニケーションの大切さを強く訴える一冊である。
■ 『繊維筋痛症とたたかう 未知の病に挑む医師と患者のメッセージ』
西岡久寿樹監修、ホールネス研究会著、医歯薬出版社、2004年4月15日発行、2400円
繊維筋痛症は90年代に概念ができ、2004年からようやく日本で疫学調査が始まった新しい病気である。だから、この病気の患者はこれまで病院に行っても適切に診断されることなく、病院をたらいまわしにされていた。
患者の多くが、医者や看護婦に知識がなく、怠けていたり詐病と思われていることがつらかったと語っている。指が痛くて動かせないのに食事が嫌いだと思われて勝手に下げられてしまったとか、そんな些細なことですらいつまでも患者には心の傷として残っている。
ある患者は全身性エリトマトーデスと誤診された。しかし、「その医者はできることは全て行い、一緒に勉強していきましょうと励まし、治療できないことに対しては申し訳ないと謝罪してくれた。病気は治らなかったが、その医者には今でも感謝している」と語る。
また、患者自身が自分の病気について勉強し、情報を発信している。これは受身一方のこれまでの患者とは違う新しい患者像として注目される。
日進月歩の医療界であるからこそ、これまでの成功例だけに頼ることなく新しい知識を学び、未知の分野に挑戦する姿勢が欠かせない。今の知識だけが完全な正解ではない、そんな当たり前のことを改めて気づかせてくれる一冊である。
■ 『あなたを守る子宮内膜症の本』
日本子宮内膜症協会著、コモンズ、2000年11月15日、1800円
少しでも医療にかかわる人であれば大変厳しい批判の本であると感じるかもしれない。しかし、完全に患者の立場からその本音が書かれており、今後、情報収集・分析力に長けた患者がどのような治療を望むのか、新しい患者像を知るのにぜひおすすめしたいのがこの本である。
かつて子宮内膜症の医療現場では、「妊娠すれば治る」「子宮を取ってしまえばいい」「怒りっぽい性格のせいだ」など患者は心ない言葉を浴びせられ続けてきた。薬は処方されるが治らない。この治療を行えばどの程度まで症状が軽くなるのか分からない。説明がほとんどされないまま子宮や卵巣を摘出されたりホルモン剤を打たれたことに対して彼女たちは大変怒り、医療不信に陥る。
やがて彼女たちは「自分たちで勉強しよう」と決意し、自分たちのデータを集めて欧米のデータと比較し、インターネットで情報を収集し、論文を読み、海外の学会に参加し、専門医を呼んで勉強会を行い、自分たちで医者のランク付けを行うようになる。
日本子宮内膜症協会の目的は「世界の標準治療を日本に広めること」であり、この本には一般の医学書には書かれていない症状も多く盛り込まれている。また、根拠があれば西洋医学だけではなく漢方薬や代替医療なども幅広く紹介している。彼女たちは病気について大変勉強しているので専門用語でごまかすことはまずできない。その積極的な態度は今までに日本にはなかった全く新しいタイプの患者像である。
■ 『また逢おう』
船戸崇史、岐阜新聞社、2003年12月6日、1238円
医者は病気を治すのが仕事である。しかし治らない病気にかかっている人を相手に医者としてどう向き合うのか、医者としての存在意義に関わる問題に真摯に向き合う姿勢が伝わってくる本である。
今を生きることの大切さや難しさ、生きることの意味、幸せとは何か、数多く存在するであろう答えのひとつを筆者は在宅医療を受けている患者の生き様を通して淡々と描く。
根底に流れているのは「あなたは、一体何が言いたいの?」という言葉。筆者は患者に、自分の体に、起きた出来事に、病気にさえも「あなたは、一体何が言いたいの?」と問いかけて静かに耳を傾けている。
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