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冬にアカギレ、ひび割れのできる女性の患者さんは多い。そんな時に重宝しているのは紫雲膏と灸の組み合わせである。もちろん、紫雲膏だけでも効果はあるのだが、ひび割れの部分に紫雲膏をすりこみ、さらに皮膚の切れている部分の両端に知熱灸を行なうと治りが早い。おそらく灸することで局所の血液循環が良くなり、紫雲膏の成分の吸収を促しているのだと思う。温灸を用いて、紫雲膏を塗った上で温めると紫雲膏の成分である豚脂が溶けてツルツルになり、皮膚を保護するようになる。
臨床で重宝しているのは、ショウガ灸である。夏に胃あたりを触診すると冷えている患者さんは多い。ショウガを薄くスライスして冷えた胃の上に乗せる。その上から灸すると、普通に温灸するよりも長時間、皮膚が温まっている感覚が継続する。生姜は漢方では胃を温める作用があり、経絡のツボから生薬を吸収させるという方法である。カゼをひいた場合も、大椎や風門といったツボにショウガ灸すると、その威力を実感できる。灸の温感は普通の温灸よりも長時間継続する。
これは痛みやコリの疾患にも有効である。生姜はもともと越婢加朮附(えっぴかじゅつぶ)湯(とう)などの変形性膝関節症に効く漢方にも配合されており、関節痛に効く。膝が痛い場合、膝の周囲にショウガ灸しても良い。また、すりおろしたショウガをサランラップでくるみ、電子レンジで温める。これをタオルでくるんで、膝の周りに湿布する。単にツボに鍼灸するよりも膝全体がショウガの生薬の作用で温まる。これは肩こりにも有効である。肩こりや変形性膝関節症の痛みやコリは教科書どおりのツボに反応が出ることは少なく、広い形で反応が出る。これは経脈というよりも絡脈が湿邪で詰まった状態である。絡脈を直接温めて循環を改善し、さらに生薬の力で通絡と利湿する。
もともと日本にはツボに白芥子を塗って水泡をつくる「天灸」や薄荷を塗る「水灸」、紅花を塗る「紅灸」、漆と樟脳を塗る「漆灸」、黄柏を加えた墨を塗る「墨灸」など、ツボに生薬を塗る灸法が存在した。しかし、現在では、各流派で細々と続けられているに過ぎない。 温灸は経絡を直接温めることができる。温めて、局所の血液循環を良くし、そこにツボから生薬を吸収させることで、さらに相乗効果が期待できる。生薬について深く研究を重ねれば、さらなる新しい灸法の創案も可能であろう。
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■ | 松節の温陽利湿効果について |
| <温陽> | 松節は温性で督脈に入り体を温め、血流を良くする。督脈は陽の海といわれ、全身のエネルギーの元である。 |
| <利湿> | 腎は中医では生命の根本と見なされる。腎経は足裏の湧泉穴から始まり、長強穴で督脈と交わるので、腎経と督脈は互いに関係しあっている。督脈を温めると尿が良く出るのはこのためである。逆に督脈に元気がなかったり、詰まっている時には尿の出は悪く、その結果、体の中に湿が溜まる。 |
| 例えば、膝の痛みは「湿がたまっている」と考える。だから雨が降ると痛む、水が溜まる、腫れるといった症状が現れる。 この場合、温めることで症状は改善する。暖めると局所の循環が良くなり、尿がよく出るので、体内から水が排出され、たまっていた湿が取れる。これが松節の温陽利湿効果である。 |
■ | 松節のキョ風活絡作用について |
| <キョ風> | 松節は体の陽の気を強くして風邪を外に出す作用(キョ風)がある。 体のまわりには衛気という陽気があり、体を守っている。しかし、ストレスなどがかかると衛気が少なくなり風邪が体内に侵入する。この時、督脈を温めて陽の気を強めてやれば風邪が体外に出る。 |
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<活絡>
| 松節は温陽して経絡を通す働き(活絡)がある。冷えて循環が悪い場合には、督脈を暖めることで血液、経絡の循環が良くなる。 以下に松節が督脈を温陽して血流を改善し、利湿した症例をあげる。 |
| 資料提供:艸木園カサイ薬局 葛西周平先生 |
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